基礎編#06 配色の調和
色の組み合わせが苦手と言う方もいらっしゃると思います。たくさんの色がありますから、それらを全部使いこなそうなどと考えてしまうと、どうするのかわからないというのも当然でしょう。そこでなるべく簡単な方法を考えていきましょう。
配色の調和については、古くからさまざまな理論が提唱されてきています。それらの検証などもなされて、「絶対的な調和」「色の組み合わせによる普遍的な美」を示す、あるいは説明できる理論は困難ではないかと言うのが趨勢といえます。実際、かつて京都の和装業界の方々と配色研究会を行なっていた際には、東京での評価と京都での評価の差や和装分野に携わる方と一般の方との差が見いだされました。地域差や、経験・学習の差異が評価の際に影響を与えていたと推論されました。
しかし、配色を作成して投票するというワークショップを継続していると、多くの理論に共通するような方法に則った、三属性における色相、明度、彩度の関係や並べ方・配置の順序など「何らかの秩序」を考慮した組み合わせが選択される傾向が明らかです。
実際に色を使いこなすためには、色の組み合わせ方で好感度がアップしたり、売れ行きが変わったりしますから、しっかり取り組みたいところです。
そこで代表的な調和論と妥当性を考えてみましょう。
シュブルールの調和論(フランス1786~1889)
類似と対比の2つの調和があるという考え方を提唱。配色方法の基本として考えられている。
- 類似の調和1―おおよそ同じ色相の組み合わせは調和する。
類似の調和2―類似の色相で、明度・彩度が類似の組み合わせは調和する。
類似の調和3―着色ガラスを通してみたような共通の色成分を持つ色は調和する。 - 対比の調和1―同一の色相で明暗が対照的な色は調和する
対比の調和2―隣接の色相で明暗が対照的な色は調和する
対比の調和3―非常に遠い位置の色相で明度・彩度が対照的な色は調和する
オストワルトの調和論(ドイツ1853~1932)
調和は秩序に等しいという考え方
- 灰色調和―3つの灰色は、等間隔である時に調和する。
- 等色相面における調和―同じ色相面の色は調和する。白の含有量が同じ、黒の含有量が同じ、白と黒の含有量が同じという3タイプがある。
- 等価値色における調和―白と黒の含有量の等しい色(色体系を水平面で切った円環上の色同士)は調和する。
- 補色対菱形における調和―補色である2つの色相で成り立つ菱形上で、白と黒の含有量の等しい色の組み合わせは調和する。
ムーン&スペンサーの調和論(アメリカ1944年に発表)
- 二色の組み合わせでは、色空間の位置関係で同等の調和、類似の調和、対比の調和を挙げ、それ以外をあいまいな領域で不調和とした。
ヨハネス・イッテンの調和論(スイス1888~1967)
バウハウスで色彩論担当。独自の12色の色相環上の位置関係での調和を提唱。
- 2色 ダイアード――反対の位置にある補色は調和する。
- 3色 トライアード―正三角形、二等辺三角形の位置は調和する。
- 4色 ヘキサード――正方形や長方形の位置は調和する。
- 5色 ペンタード――三角形に白と黒を加えたもの
- 6色 テトラード――四角形に白と黒を加えたもの
ジャッドの調和論(アメリカ1900~1972)
これまでの調和論の共通部分をまとめた(写真は各原理に相応する参考事例 - 写真 杉山朗子)
- 秩序の原理―色空間の中での規則で組み合わせられた配色は調和する。
- なじみの原理―見慣れている、とくに自然の中に見られる組み合わせは調和する。
- 類似性の原理―共通の要素や性質を持っている色の組み合わせは調和する。
- 明瞭性の原理―あまりに似ているあいまいな組み合わせより、差異がある方が調和する。
以上のような配色理論の共通部分を、改めて考察してみましょう。
色空間上の規則・秩序を利用すると調和しやすい。
ディスプレイなどの実習で、バラバラにおかれた多数の色を、色相環順に並べるなどすると「美しい」と評価する人が増加する傾向が見られます。明度順に並べ替えるなども好評につながりやすいです。このような様子を見ると、表色系の色空間上での規則を活用した組み合わせは、秩序感をもたらし好感につながりやすいと言っていいのではないでしょうか。
見慣れた色は好感をもたれやすい。
カルチャーショックならぬ「カラーショック」と名付けていますが、他国に行くと不思議な色の組み合わせがたくさんあると感じることはありませんか。各国それぞれ、よく使う色の組み合わせがあり、自分が育った地域の色に出会うとホッとし、他の地域や国の使い方をみると不思議さや違和感を覚え、落ち着かない気分になることがあります。 但し一方で、その「異国感」が憧れや魅力になる場合もあります。やはり色の組み合わせの魅力は一筋縄ではいかないと言えるでしょうか。
配色のテクニックは、類似と対比の大きく2種類で分けられる。
共通性のある色の組み合わせと、対照的な色の組み合わせはどの理論でも取り上げられています。大くくりとして、配色調和のテクニックとしたらいいのではないでしょうか。
同じような灰色を含んだ色同士は調和しやすい。
共通の要素として、同一の色相や隣接の類似の色相と言う関係も重要ですが、白と黒の配合が同じ様な色はトーンが同じ色として、調和しやすいでしょう。
差異がある程度以上明瞭である方が調和しやすい。
あまり実用的ではないとされるムーン&スペンサーの調和理論ですが、色相環の中であいまいな関係の色は不調和であるという考えは、好感や美的な評価が得られにくい色の組み合わせの存在を示しているといえましょう。人によっては、不快と感じる可能性がある関係でしょう。ジャッドの理論では、あまりに似すぎているのも不調和につながりやすいとしています。色はそれぞれがきちんと認識できる状態を保つ中での組み合わせが良さそうです。
配色調和論のまとめとして 色相とトーンから考える配色
以上の整理を受けて、ここで理論と実践の中から整理した簡単な配色方法を紹介したいと思います。マンセル表色系をもとにしたNCD HUE&TONEシステムで整理したのが下の図です。
まず色空間上での位置関係でテクニックを整理してみましょう。色相とトーンの関係の組み合わせで8通り考えられます。
さらに、配色を使いこなすためのポイントは、その色の組み合わせが好感や美的な評価を得るばかりでなく、最終的に空間や製品、パッケージなどにどのような演出・効果を与えうるのかを考慮する必要があることです。時と場所、用途や目的に合わせて使い分けることが、実践としては重要でしょう。
配色テクニックを大まかに類似と対比の調和にわけ、それらの効果の差異に注目して下さい。
類似の調和の事例
テーブルウェア・フェスティバル有田焼ブース
スクエア・ディナープレート
対比の調和の事例
テーブルウェア・フェスティバル2014年
展示作品 大平恵
●色相 ●トーン ●類似(同質)●対比(異質)この4点に着目しておくと簡単にできる配色方法です。
この他、配色への評価は、地域差だけでなく、個人の嗜好の差も影響してきます。この際にも、色相への好みばかりでなく、類似型を好みやすい人と対比型を好む人などの特徴をとらえることができます。物事の明快さを好む人や、スポーティーな生活スタイルを持つ人は対比型を好みやすく、静寂さを好む人は類似型を好みやすいなどの傾向がみられ、価値観・ライフスタイル・性質の傾向などで評価が異なってきます。
それらへの配慮も取り入れながら、効果的な「配色」に取り組んでいただきたいと思います。
2017年04月21日
Text by 日本カラーデザイン研究所