基礎編#05 「色を測る」ということ
「色を測る」ことを実践したことがある人は、一般的には少ないのではないでしょうか。色彩を専門の範囲としている芸術系大学の教授でも、測色計を研究室に備えている人は少なく機械での測色は、専門の企業のごく一部の人々の業務のようです。専門の機器は特殊な精密計器で、需要が少ないため高額で入手しにくいといえましょう。その反面、スマートフォンのアプリで簡便に測色できるモノが出てきて話題を呼んでいます。
そこで今回は、「色を測る」ことについて考えてみたいと思います。
1.色の測定の目的
測色をする目的は、大きく2つあると思います。まずは、同じ色を生産するため、色をきちんと把握するという目的と、もう一つは、色の分布を把握して市場での色の分布や色の使われ方の範囲を把握するという目的の大きく2つだと思います。
1)機械による測色
工業製品をつくる際には全く同じ色を生産しなければなりません。日本の工業製品は色彩管理の面でも大変な信頼の高さを誇っていると思います。そのための色を測定する機械やその機能については、コニカミノルタ社(※あるいは色差計等製作会社)のホームページが詳しくわかりやすいでしょう。ここではその解説は任ではないので、そちらをご参照ください。
機械を用いた測定は、大型機械のほうが安定して正確ですが、簡易な測色用でも十分な機能があると思います。業務で求められる正確さによって選択されると良いでしょう。分野によって、認められる色の差の範囲が日本工業規格に示されています。厳格にまるきり同じ色をできる技術は分野によって異なるからです。
- 以下の内容の分野を明示する
日本電色工業株式会社
限界色票と言って、この範囲までの誤差は認めるというツールを作成している企業も多くあります。この方法についてはJISでも認められています。明度ではこの範囲なら大丈夫であるとか、彩度の差はこの範囲まで許されるなどの範囲を色見本の形で作成しておくわけです。
最近景観の色彩なども数値で表すことが一般化してきたため、建築材料などで、その数値以外は認めてはならないと考えた人も出てきたようですが、もともと前述のように、分野によって色の差の許容度が設定されているので、留意したいところです。
2)目視による測定
人の眼による色の測定を用いている分野も多くあります。
JISの視感の測定法の応用型になりますが、色測定の為に明度 L*が約 45∼55 の無光沢の無彩色で覆われたボックスで布帛製品の色の見えの測定をするという企業があります。これは光源の色が変化すると製品色が変化してみえるため、自社店舗で使用されている光源ランプ環境の下で同じ色に見えるかどうかをチェックする方法です。お客様へのプレゼンテーションを一番よい状態にするべきという考えからでしょう。
また、建築物など戸外での色の測定でも、自然の昼光の下で色見本を用いての測色があります。建築関係の学会では人間の目による測定のバラつきについての研究発表などがあるように、これは少し熟練が必要といえましょう。色の視感による測定は訓練することによって精度が増す技術と言っていいでしょう。
参考までに「JIS 8723 表面色の視感比較方法」で述べられた「観察者」を見てみましょう。
観察者は、微妙な色の違いを判断する能力を必要とする。そのため、各種の色覚検査表で検査をすることが望ましい。観察者が視力補正用の眼鏡を使用する場合は、その眼鏡レンズは可視スペクトルの領域で均一な分光透過率をもっていなければならない。目の疲労の影響を避けるために、こい色の後で、すぐにパステル色及び補色を見てはいけない。明るく鮮やかな色を比較する場合に、もし迅速に比較結果の判断ができないときは、次の比較を行う前に、観察者は数秒間周辺視野の無彩色に目を向けなければならない。観察者は、連続して作業を行うと、視感判定の性能が著しく低下するので、比較作業をしない数分間の休息を頻繁に取らなければならない。
観察者の色覚のチェックと、疲労による能力の低下への注意喚起がされています。「色」を見る仕事は楽しいと思われがちですが、実は、ずっと差異に注意してジッと見続けていると大変疲れるものなのです。
前述のような注意を読むと、視感による測色は条件などが難しく、不正確のように感じるかもしれませんが、色見本と現実のモノと比較してみると実際の色が良くわかります。色見本との比較による視感測定は、物体に直接あてて見ることができると一番安心です。大体の検討をつけたい時には、グレーに近い色は、グレーを当ててみる、白っぽい色では白を、黒っぽい色を見たい時には黒を当てて比較しながら見ると分かりやすいでしょう。
2.数値と感じ方の不思議
例えば、YRと言う黄赤の色相では、彩度を下げ(グレイみに寄せる)、明度をあげていく(明るくする)と、ピンク色に近寄って見えるという現象をおこします。色相としての数値は同じなのに、人の感じ方としては異なって見えるということがおこるのです。自然の色の見え方と、カラーシステムのルールはぴったり一致しているとは言えないのです。
近年「数値で表わす」ことで、気になる動きがあります。「機械で行なった測色の値」が独り歩きしているように思われることです。機械で測ると、微細な彩度も細かくひろえます。例えばマンセルの数値で、彩度0.1や0.2程度の色を有彩色のように扱うのは、範囲の考え方からいうと、難しいと感じます。大きい面積にすると彩度アップするとはいえ、何かの色みを帯びたグレーに見えるといった状況と認識したほうが良いのではないかと思われます。
このように色彩を数値で表わすことによる様々な事柄をあげてみると、ますます、色は面倒であるとか色を測ることなんて必要ないという考えになるかもしれません。しかし、このように「ずれて感じられる」「顔料や染料の自然の見えの変化」の特性を知ることができるのもきちんと色を測っているからこそわかることなのです。
3.色の測定データの活用
色を測定し、その結果を色相明度彩度の表に集計すると、集中している色、すなわち使われる頻度の高い色が分かってきます。流通業で売上げ分析などに用いているカラーコードなどはこれらのデータを利用しています。
例えば、ここに示した表とグラフは2016年の秋冬のレディス向けの複数の団体のトレンド提案カラーの色を測って整理したものです。どのような色相やトーン(淡い濃い派手地味などの色の調子)が増加しているかなどを一覧に見ることができ、分かりやすいメリットがあります。
色を測ると、使われ方の現状把握や不足を感じているのではないかとか期待されている色の予想など色々な状況がそのデータの中に埋まっているのが感じられます。経年で比較する、また、継続してデータを蓄積すると長年愛されている色があるのも分かってきます。
4.「色を測る」ことの拡がり
色の数値で表す便利さは、色々な視覚特性を持つ人々の共通言語として今後ますます活用の幅が拡がっていくように思います。最初に述べたように、スマートフォンなどで簡易に測色する機能も進んでいますので、もっと一般的になじんでいくことでしょう。その有効な活用法を考えるとともに、見え方の変化があるという点や、分野によっての許容の幅など考慮しながら使いこなしたいものだと期待しています。
2016年08月31日
Text by 日本カラーデザイン研究所