統合レポート2024 対談:「義利合一」と「人間尊重の経営」
2024年6月28日 公開
本ページはAIを用いて翻訳しています。
サステナビリティ経営に見識が深く、長期投資を専門とするコモンズ投信株式会社会長・渋澤健氏をお迎えし、社長の髙島との対談を実施しました。
複数の外資系金融機関およびヘッジファンドでの経験を経て、2001 年にシブサワ・アンド・カンパニーを設立。2007年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業。2008 年に会長に就任。シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。渋沢栄一の玄孫(5代目の子孫)にあたる。
「義利合一」に尽くす、経営者としての役割
髙島 2024年1 月、当社はartienceグループとして最初の年を歩み出しました。社長就任3年目から着手した社名変更は2年がかりのプロジェクトとなりました。看板を変えて終わりではなく、いよいよここからが本丸であり、生業を変えて企業価値を高めていくべき段階です。渋沢栄一氏の『論語と算盤』には学ぶところが多く、繰り返し読んでいます。
彼が説き続けたように、利益と社会への貢献を両立させる「義利合一」に尽くしていきたいと思っています。
渋澤 実は私は長らく、祖父の祖父である渋沢栄一のことを意識したことがなかったんです。40歳になり自分の会社を立ち上げたことを機に、500社の会社設立に関与したという彼の著作をあらためて振り返るようになりました。それまで子孫に財を残すことに無関心な人だと思っていましたが、「言葉」というすばらしい財産を残してくれていることに気が付きました。私自身、投資会社を運営するうえでそれが活かされることは多いです。
御社は今、長い歴史を持つ社名すらも変えて変革に乗り出そうとされており、その強い覚悟を感じますが、社長ご自身にもいろいろ葛藤があったのではないでしょうか。
髙島 以前から収益の低迷には危機感を持っていましたが、変革への決意が固まったのはコロナ禍による影響が大きかったと思います。社長に就任した年の4月に緊急事態宣言が発令され、オフィス勤務の社員にはリモートワークを命じながらも、工場の社員には生産を止めないために出社を求め続けました。この矛盾を正当化できる大義があるのかと、当時真剣に悩みました。社員を感染リスクに曝してまでつくり続ける必要があるものを私たちは社会に提供できているのかと。
東日本大震災のときは、情報を伝える新聞用インキの供給を絶対に止めないことが私たちの使命でした。しかし、デジタル化が進んだ今は状況が異なります。社会で本当に必要とされるものをつくるため生業を変えていかなければならないと、そのとき強く思ったのです。
渋澤 髙島社長が経験されたように、経営者は相反する要件の中で苦悩することが少なくありません。お客様からは値下げを、社員からは昇給を、投資家からは利益を求められるというのもその一例でしょう。
渋沢栄一の著作が、『論語と算盤』であって『論語か算盤』ではないのは意味深いと思っています。「か=or」というのは効率性を高めますし、すでに存在している選択肢から選ぶということ、「と=and」は相反するかもしれない複数の関係性を合致させることです。
髙島 確かに「と」の重要性は、いろいろな場面で出てきますね。経営では、こちらを捨ててこちらを選ぶというトレードオフの局面も多い一方、両立がどうしても必要なときもあります。
渋澤 組織は「か」で判断できない状況では、どんどん上に判断を上げていきます。最終的に行き着くのが社長です。社長はそこで、見えない未来と現在をつなげる「と」の決断をしなければならない。経営者の役割は「か」ではなく「と」にあり、新たな価値やイノベーションはそこに生まれてくるのだと思います。
「人間尊重の経営」のもと「個」の価値を重視
髙島 すべてを変えるつもりで企業変革に乗り出すなか、当社が決して変えることがないのが「人間尊重の経営」というCorporate Philosophy(経営哲学)です。日本ではとかく「全体」を「個」よりも先に置く傾向が強く、主語を組織にして話しがちです。しかし、本質的には「個」があって「全体」があります。「この会社が」「この部門が」は突き詰めていけば「◯◯さんが」となり、むしろそちらがより重要と思っています。
渋澤 まったくその通りですね。日本人では「個」で見ると魅力的な人がたくさんいるのに、組織のなかに埋没してしまうことが多く、非常にもったいないと思います。人間尊重とは「個」の価値を見えるようにすることに他なりません。製造業で「個」を最初に謳う会社は珍しく、新鮮に感じます。
髙島 「個」を打ち出すのは、当社としても新たな試みです。当社はメーカーなので、組織として品質の良いものを安く安定的につくるという思考モデルが、長年染み付いてきました。それはそれで大切なのですが、昨今では環境変化が大きく、AIの普及などを背景に、おそらく今後10年間で社会の構造が劇的に変わっていくでしょう。そんな中だからこそ、今まで当社が重視してきたサイエンス的な、論理的な価値に加えて、一人ひとり違う感性に基づく価値の重要性が高まると思っています。混沌とした時代に、「あれとこれを結びつけてこんなことができる」といった自由な発想で新たな事業をどんどん生み出し、「個」の感性価値を活かした戦略モデルを磨いていきたい。そうした考えを反映したのが、Brand Promise「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」であり、artとscienceをかけ合わせた新社名です。
人的資本を高め、新たな価値創造を目指す
渋澤 かつて企業の存在意義は「利益の最大化」といわれる時代もありました。しかし今日、さまざまな環境・社会課題を無視して利益だけを追求するのでは、到底社会の支持を得ることはできません。目指すべきは「価値の最大化」です。価値には財務・非財務の両方が含まれます。そして多くの場合、会社の真の価値は見えていないところにあります。見えているのは氷山の一角に過ぎず、それ以外は時間をかけて可視化されてくるものだと考えています。特に「人」に関する価値は最も見えにくい部分なのですが、新たな価値創造を考えるうえで絶対に欠かせない要素です。
髙島 なるほど、同感です。当社が掲げる「人間尊重の経営」の一番の鍵も、やはり人の価値、人的資本をいかに高めていくかにあると思っています。それを大きく左右するのがモチベーションややる気の部分であり、個々人のパフォーマンスを最大化できるような環境づくりが求められています。
渋澤 「人材は当社の最大の資産です」という企業は増えています。ただ、企業は工場や土地を所有し、バランスシート上の資産として計上できるのに対し、人材は所有できず、その意味では本質的な資産とは異なるかもしれません。しかし、価値を生み出すために必須のインプットであることは間違いなく、財務資本に人的資本を加えることで初めて企業価値が創造されます。
髙島 当社では現在、人的資本においても海外比率が高まっています。海外市場は成長ドライバーとなっており、長年にわたる事業展開により世界に拠点が増え、ネットワークも充実してきました。ここでも、最大の課題は人に関することであり、グローバルな戦略に沿った形でHR(Human Resources 人的資源)の機能を強化していく必要があります。海外拠点には現地スタッフを経営者として配置することを早期に実現させたいですし、国境を越えた人材の交流ももっと活発化させたいと考えています。経営においても、日本人以外の方を役員に迎え入れるなど、取締役会の多様性を高めるためのグローバル化が欠かせません。
渋澤 財務資本はすぐに数値化できるのに対し、人的資本の数値化は難しいというのも企業がご苦労される点ではないかと思います。一方、評価する側の投資家も画一的な存在ではありません。「とにかくROEを見せてくれればいい」という短期視点の投資家がいる一方で、「結果を出しつつ、個を尊重する」という企業の姿勢を評価し、長期的視点から寄り添ってくれる投資家もいます。
「自由と規律」に重きを置いたガバナンス
渋澤 投資家に対しては、どう情報発信していくかも大切な点と考えます。最近、企業のPBR1倍割れが話題になることが多いですが、PBR1倍割れというのは、将来その企業の純資産(B)、すなわち財務的な価値が損なわれることへの市場の懸念を示しています。背景には、非財務価値が十分に可視化されていないことが往々にしてあります。長期投資家は、「現状での成果」よりも、企業がどのように課題を認識し、乗り越えていくための計画を練っているかに注目しています。情報開示は戦略的に行うべきで、財務面だけでなく、将来を左右する非財務の価値を的確に見せていく、そのストーリーテリングが重要となります。
髙島 PBRの問題は当然のこととしてしっかり対処しなければならず、財務面の価値向上と同時に、人的資本を含めた非財務面の価値の見える化が不可欠なのだと思います。
さらに、非財務面ではガバナンスも極めて重要な要素と考えており、今回「自由と規律」を社内に強く打ち出しました。規律に関しては、コンプライアンスはもちろんのこと、結果へのコミットを明確にしていきます。目標達成に向けて、各人の責任の所在を明らかにしていくということです。その一方で、これまで以上に社員が自由にチャレンジできる環境を整え、人事制度もそのようにつくり変えていきます。
渋澤 ガバナンスの本質に関わるお話だと思います。自由と規律はコインの表裏であり、責任を持って行動する限り、自由をどんどん認めていくというのは重要でしょう。社員を殻の中に押し込め、ルール通りの行動しか認めないというのは、価値を生むガバナンスとは言えません。
髙島 現在、当社の取締役会は半数以上が社外取締役なのですが、その方々の間でもリスクを取ってチャレンジすることを積極的に認める気風があります。「そんなことをすると失敗するのでは」「やめておくべき」という一方的な言われ方をすることがなく、「挑戦を見守り、評価していくのが私たち社外取締役の役割」と言ってくれるのを非常にありがたく感じています。
渋澤 すばらしいですね。そもそもリスクとは、良い方に転ぶか悪い方に転ぶかわからない不確実性の高さを意味するものです。その中で、できるだけ良い方向に進むようにコントロールするのがリスクマネジメントであり、悪い結果を恐れて最初から何もしないのとはまったく異なります。
多様なネットワークを広げ、未知の分野に挑む
髙島 2024年度よりスタートした新中期経営計画artience2027は、変革への覚悟を形にしたものです。重点を置く事業領域を明確にし、ある意味でリスクを取りながら経営資源を集中的に配分することで、ステークホルダーの皆様の期待に応えていきたいと思っています。
渋澤 今回お話を伺い、髙島社長の強い決意がよく伝わってきました。御社は、印刷インキメーカーから始まり、時代の変化に合わせて事業を多角化し、有機的に進化を遂げてきた会社です。今、選択と集中を進める中でも、さまざまな分野に事業の「点」を打っておくことの重要性を、ぜひ心に留めて
いただきたいと思います。直接今期の数字には反映されなくても、10年、20年、30年先にそれらの点がつながり、新たな変化をもたらすこともあるでしょう。
髙島 大切な示唆をいただいたと思います。未知の分野での挑戦は当社単独で成し得ないことも多く、新たなネットワークを広げ、いろいろな企業・組織との協業の可能性を探っていければと思っています。
本日は誠にありがとうございました。