統合レポート2024 トップメッセージ
2024年6月28日 公開
本ページはAIを用いて翻訳しています。
私たちを取り巻く事業環境は、速く、激しい変化の中にあります。3年にわたり世界で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症は、社会のさまざまな面で時計の針を進めました。当社においても、急速なデジタル化により印刷インキの需要が不可逆的に減少。私自身、社長に就任した直後であったことから直面する課題に対し大きな危機感を覚え、企業変革を真剣に考え始めるきっかけとなりました。
原点に立ち戻れば、当社の創業者の小林鎌太郎は、自身が非識字者であったからこそ、日本の発展には教育が不可欠と考え、書籍や教科書の印刷用インキの製造販売から事業を興しました。将来を見据え、社会に貢献していくというDNAは私たちの中に脈々と受け継がれているのです。
「いま、私たちは本当に社会が必要とするものを生み出しているのか、将来も生み出し続けられるのか」という根源的な問いを常に意識し、そのためにも企業変革を断行し、新たな価値を創造し続けられる企業となるべく舵取りをしてまいります。
社名にartを組み合わせるのは一つの挑戦
2024年1月、私たちは社名をartience株式会社に変更し、artienceグループとして新たなスタートを切りました。創業129年目を迎える老舗企業が看板を付け替える意味は決して軽くはありません。これまでにも当社は、インキメーカーからスペシャリティケミカルメーカーへと変貌を遂げ、その時代時代に合わせた製品・サービスの提供で人びとの信頼に応えてきました。近年収益の低迷が続いた中、今までの歩みを否定することなく、培ってきた信用という基盤の上に変革を起こしていく―――その強い覚悟を社内外に伝えるのが今回の社名変更です。
新社名検討においては、社内の声を広く集め、「当社の強み・弱み」、「将来目指す方向性」などを明らかにするプロセスを経ました。50個くらいの候補の提案を受けた中から3つに絞り込み、最終的な選定の際、プロジェクトメンバーの多くが選んだのが「artience」でした。
artienceは、「art」と「science」を組み合わせた造語です。当社は、前中期経営計画でもSIC(Scientific Innovation Chain)を掲げたように、サイエンスのイメージが強い会社だと思っています。ここにアートを組み合わせるのは一つの挑戦でした。サイエンス思考に基づく理性のうえに、人の感性や思い、情熱を組み合わせることで、今までにない新たな価値が生まれてくるんじゃないかという思いが強くあります。
アートには、リベラルアーツの意味も込めました。教養学や人文科学に代表されるリベラルアーツは、柔軟な思考や文脈を通じての理解を重視し、多面的な思想による多様な複数解の存在を認める学問分野です。すでに海外売上比率が5割を超える当社が今後さらなるグローバル展開を進めていくうえでも、この考え方は非常に大切と考えます。お互いの歴史・文化・宗教・民族性などに目を向け、尊重し合い、共生の道を探っていくという思いを社名に反映させました。
変わらない経営哲学と、Brand Promiseで目指す姿
社名変更に伴い、Corporate Philosophy(経営哲学)、Brand Promise(ブランドプロミス)、Our Principles(行動指針)からなる理念体系を新たに制定しました。今回、会社のすべてを変えるつもりで変革に臨んでいますが、唯一変わらないのはCorporate Philosophyである「人間尊重の経営」です。当社のすべての営みの中心には「人」がいます。 言い換えれば「個(社員)があって全体(会社)がある」のであり、決してその逆ではないということです。
Brand Promiseでは、「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」を掲げました。理念体系に「感性的な価値」を組み込む案は、社名を決める過程で持ち上がってきたものであり、アートの考え方と密接につながっています。何にワクワクするか、どういうとき幸せや心地よさを感じるかを「感性に響く価値」と呼ぶなら、それが何かは人それぞれであるはずです。社員全員に「私の感性価値とは」を考えて書き出してもらい、それを共有するといった取り組みもできればと思っています。
先般、アサヒビール様とともに開発した「生ジョッキ缶」の“泡の出る缶”は、「感性に響く価値」創出の好例となりました。「開栓時に泡が出てしまうこと」は本来、缶ビールではNGとされる現象でした。しかし、そのメカニズムを科学的に解明しコントロールした当社の内面塗料の技術と、新たな缶ビールづくりを目指すアサヒビール社の思いが重なり、お店で生ビールを飲むときのようなワクワク感をエンドユーザーに感じてもらうことができています。素材メーカーの当社だけでは成し得ないこうした新たな価値創造を、いろいろな他社との協業により実現できれば最高だなと思います。
SIC-Ⅱを経て、「成長」を掲げる新中期経営計画へ
落ち込んだ収益力の回復を喫緊の課題とし、徹底したコストダウンを進めた3年間でもありました。国内では印刷インキの構造改革として販売6社を統合、茂原工場(千葉)を生産統合し、海外ではフランスとフィリピンの着色剤事業を整理、中国・天津での顔料事業からも撤退しています。2023年度には、原材料高騰に対する価格改定が追いついたことも相まって、2019年度の利益レベルを取り戻しています。
一方、次の成長への布石として、海外を中心に3年間で累計468億円を成長事業に投資してきました。インドや東南アジア、トルコではその効果がすでに出始めており、次の3年間へつなげていきたいと考えています。
前半の3年間の中期経営計画artience2027では、事業ポートフォリオの変革に注力します。成長を期待できる既存事業での高収益化を図り、そうではないものには一段の改革を進めていきます。また、戦略的な重点事業を定め、経営資源を集中的に配分します。リチウムイオン電池(LiB)用のカーボンナノチューブ(CNT)分散体などのモビリティ・バッテリー関連事業、およびセンサや半導体などのディスプレイ・先端エレクトロニクス関連事業がそれに当たります。
3年間で、既存事業への設備投資で300億円、LiB用CNT分散体で300億円、合計600億円を投資していく予定です。この額はSIC-Ⅱでの468億円と比べても大きく、本気で事業ポートフォリオの変革に臨む私たちの決意を反映したものとなっています。
資本効率とキャッシュフローの最大化に向けては、部門ごとの目標や業績管理をより見える化するた、ROIC(投下資本利益率)とCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の導入を決めました。「自由と規律を大切にしたい」という意思を、これまで社内で繰り返し伝えてきたのですが、これはその規律の部分です。それぞれの社員の自由な挑戦を大事にする一方、結果にはこだわり、マーケットとの約束を守っていく。こうした文化風土を広げていきたいと思います。
キャッシュアロケーションでは、この3年間で予想されるキャッシュフロー950億円のうち、前述の通り600億円を成長投資に充てます。一方で、バランスの取れた株主還元も重視しており、配当・自己株式取得を合わせて200億円を予定しています。純利益は400億円を見込むため、総還元性向は50%以上となります。大規模な投資をしながら株主還元も充実させるという、かなり踏み込んだ計画内容になったと考えています。
今回、さらなる自己株式取得について株主提案もいただきましたが、安定したリターンの提供には永続的な企業成長が前提となります。保有株式の縮減にも引き続き取り組んでいきますが、成長戦略を推進していくため、当社の資本政策にご理解いただけるよう対話を継続していきます。
サステナビリティ経営の深化に向けて
新中期経営計画においても、サステナビリティビジョンasv2050/2030のもと、引き続きESGの取り組みを深め、サステナビリティ経営を実践していきます。日本を代表する実業家・渋沢栄一が『論語と算盤』で貫いている「義利合一」の考え方は私の経営の軸となっています。正しいことをする「義」、利益を追い求める「利」。これらは決してトレードオフの関係ではなく、両立可能なことです。
地球環境に対しては、私たち化学メーカーが与える環境負荷を認識したうえで、責任を果たしていくことが重要です。持続可能な社会に貢献する製品を生み出していく、モノづくりでの環境負荷を削減していく、大きくはこの2方向になります。
気候変動対策では2050年カーボンニュートラル実現を念頭に、2030年度までにCO2 排出量を国内35%削減(2020年度比)、海外35%削減(2030年度BAU比)を達成していきます。廃棄物と有害化学物質についても同様であり、数値目標を各工場まで落とし込み、排出量をコントロールしていきます。
サステナビリティ貢献製品の売上高構成比率は、2030年度までに80%、2050年にはすべての製品がサステナビリティ貢献製品となるよう目指します。環境・社会に寄与する製品は、単なる「貢献」を超えて、今日ではそれ自体が競争力の源泉になると確信しています。
一方、ガバナンス改革として、当社は2022年3月に監査等委員会設置会社に移行しました。現在は3名の女性社外取締役を迎えるとともに、社外役員比率を高め、多様な視点からの議論を活発化させています。2024年度より執行役員・顧問の数を26名から16名に半減させたのも、新たな世代にバトンを渡していくための大きな決断だったと思います。そのほか、海外を含めた内部通報システムや情報セキュリティ対策でもアップデートを重ね、継続的なガバナンスの強化を図っていきます。
すべての取り組みの核となる人的資本の強化
当社の成長を支えるのは常に「人」であり、「人間尊重の経営」を掲げるなか、人的資本戦略の重要性は言うまでもありません。40~50代の社員を集めた社長塾「未来検討タスクフォース」の開催は、今年で3期目に入りました。サクセッションプランとしての役割も強く、2024年1月には本タスクフォース出身の執行役員が誕生しています。
また、社長塾のメンバーから出た「社長直轄で新規事業を生み出す仕組みをつくるべき」という強い意見を受け、新たにインキュベーションセンターを立ち上げました。この流れを受け、社内のビジネスコンテストで選出されたチームが事業化を目指すなど、非常に良い動きが起きています。
2024年度からは、「インキュベーションキャンパスプロジェクト」と称した月2回のイベントを開始しています。毎回さまざまなテーマで、スタートアップ企業や地方自治体、NGOなどを招いた交流の場として、社員は自由に参加でき、お客様など社外にも広く開放していきます。人的ネットワークをグローバルに拡げていくことで、artienceグループを世界中から人と情報が集まる企業にしたいという理想があり、その具現化に向けた第一歩になればと思っています。
今日人材の流動性が高まる中、当社としては“引き止める会社”ではなく“惹きつける会社”でありたいと願います。今後、予測される労働力不足に対し、生産性を高めるためにも、エンゲージメントやモチベーションの向上の施策は不可欠です。私自身、30代のときのアメリカ赴任は慣れない英語を使いながら一人で新規顧客を開拓するハードな仕事でしたが、もがき苦しんだあのときの経験が今の自分をつくっているとも思っています。今はもっと効率的な仕事の仕方はありますが、若い人たちにはその経験が後に活きる仕事をやってほしい、そのための適切な人材配置が必要だと考えています。
さらに、従来は男性中心だった工場などでも、女性が働きやすい環境を整えていくことが多様化促進の観点から欠かせません。多様性こそが新しい価値創造につながる源泉であり、それは性別だけでなく国籍や障がいの有無などについても同様です。
世界の平和に向けて多様なステークホルダーと共に
グループが目指す企業変革の意義を直に伝えると、それが社員に響いているという手応えを得ることが多いです。「すでに会社に変化を感じている」という声が年齢層を問わず挙がってきており、こうした変化への実感がグループ全体に広がっていくことを期待しています。2024年度には、海外拠点にもできるだけ訪問する予定です。それが現場の活性化につながれば良いですし、反対に私自身が刺激を受け、元気をもらうことも少なくありません。
経営の舵取りを担う立場として、artienceを良い会社にしたいと思います。私が考える良い会社の定義とは、「社会に貢献する製品やサービスを生み出していること」「社員がやりがいを持って働けること」「業績を上げ続けられること」の3つです。当社だけで成し得ないことは多く、お客様や取引先、同業他社などを巻き込みながら、理想に向けて取り組んでいきます。
依然として国際情勢は先行きの見通しづらい中にありますが、私は世界平和は経済で達成できると考えています。国境をまたぎ産業の結びつきを強めて、多様な人びとと新たなものを一緒に生み出せるのは企業グループであってこそ。経済が平和に果たす役割の大きさを信じ、世界のステークホルダーと共に明るい未来を目指してまいります。