ビジネス編#06 アジア諸国でのカラー・イメージの共通性と差異

グローバルなカラー戦略におけるローカルな対応の必要性

グローバル・マーケットを視野に入れて活動する日本企業が多い中、最も力を入れているのは中国を含むアジア諸国ではないでしょうか。地理的な距離や人々の体型や顔つきに親近感を覚えるためか、欧米の先進国よりも感性が近いだろうと思う方も多いかもしれません。ところが、その感覚で製品色の展開を考えると失敗する可能性が生じます。つまり、日本ではこの色が好まれやすく、売れているので、アジア向けにも同じ色を出していこう、という考え方です。ここでは、以前おこなったアジア諸国におけるカラー調査の結果についてお話しすることで、気候・風土が育む嗜好性の地域差をご理解いただこうと思います。

アジア・カラー調査は、日本、中国、タイ、ベトナムでおこないました。この調査の特徴は、全ての国で現物のカラーチャート(単色、配色)を用いていることと、20代から50代までの幅広い年代の男女を均等にとっていることです。近年はWEB調査が活用されることが多いのですが、見え方の違いなどを考慮すると、実際のカラーチャートを使う方が正確に比較検討ができます。また、複数国を対象とした色彩嗜好・色彩感情の学術的な比較調査はこれまでも行われています。しかし、それらは大学生などに対象を限定したものが多く、年齢に幅を持たせ、かつ均等に調査したものはあまりありません。

"健康"に求めるものは陽気さ?ナチュラルさ?清潔さ?生命力?

調査では、いくつかのコンセプト・ワードを提示して、それにふさわしいカラーを選択していただいています。そのひとつが"健康"なのですが、国により結果が大きく異なりました(図1)。先ず、日本ですが、過半数の人が"健康"からオレンジ色を想起しており、次に、コーラルピンク、クリームと続きます。暖色系の明るいトーンにヘルシーさを感じているわけです。それに対して、中国では、イエローグリーンを想起する人が4割で最も多く、次がグリーンです。自然の樹々・植物を連想してのことでしょう。さらに、タイでは、他の色を抑えて圧倒的にホワイトが選ばれていました。純粋さや清潔感がイメージされていると考えられます。そして、ベトナムですが、レッドが4割強で最も多く、次いでブラックが3割強となっていました。他の国々に比べると、はっきりとして力強いカラーであるのが特徴で、たくましい生命力を求めているのではないか、と思われます。

"先進的"はクールな感覚かウォームな感覚か

次に、「先進的」というコンセプト・ワードに対する結果を見てみましょう。図2にあるように、やはり国によって想起されるカラーには違いがあります。日本では、シルバーが最も「先進的」なカラーであり、次にブラック、ホワイトというクールなニュートラルカラーが選ばれています。それに対して、タイでは、ゴールドやレッドというウォームなイメージのカラーが選択されています。日本が少し無機的で冷たいモダン感覚だとすれば、タイは華やかさ、きらびやかさのある感覚でとらえていると言えるでしょう。中国も、シルバーやゴールドというメタリック・カラーが選択されてはいますが、他の国では出てこないオレンジやイエローグリーンが特徴的です。カラフルでカジュアルな感覚です。ベトナムは、メタリック・カラーの想起率が低く、「健康」同様にブラックとレッドというコントラストの強いカラーが出現しています。

"かわいい"カラーはアジア共通

最後に、「かわいい」を取り上げます。日本発のkawaii cultureは、今ではすっかり国際的に通用するようになりました。そのためもあってか、アジア4カ国で「かわいい」から想起されるカラーは図3のように、ピンク系(ピンク、ベビーピンク、コーラルピンク)に集中しています。また、その他のカラーを見ても、明るくソフトな色調が並んでおり、国による差異は「健康」や「先進的」に比べると少なくなっています。タイでは、ターコイズやスカイブルーといった寒色系の色相が若干特徴的であるとも言えますが、総じて、"かわいい"=ピンクという図式がアジアでは通用するのです。

以上のように、基本的なコンセプト・ワードについてアジア各国でのとらえ方には、共通性と差異があることがおわかりいただけたと思います。製品やサービスをグローバルに展開する際、最も効果的な色使いには、全ての国や地域に標準化できる場合と、国や地域毎に適応すべき場合とがあるのです。また、今回は触れませんでしたが、嗜好色や文化・宗教による禁忌色や特別な意味をもった色にも、配慮が必要となります。

2016年06月14日

Text by 日本カラーデザイン研究所