応用編#04 色彩と五感 その1 五感が影響する色彩嗜好
色の好みを決定づけるのは、複雑な要因によるものとされています。これまでの色彩研究で様々な要因の影響があげられてきましたので、ざっとその代表的なものをあげてみましょう。
- 地域・立地条件による気候・天候・風土・景観の影響
地球の緯度による太陽光の違いや、地理的な条件による日照率の違い、雪や梅雨などの有無などが影響を与えるとされていますが、日本でも北と南では色彩嗜好の差異が認められる調査結果もあります。 - 民族による違い
肌の色や髪の色との映りのいい色が好まれれ、よく使われるなどの側面や、伝統文化・習慣・慣習の違いや宗教の教えや習わしの影響。
地域ごとに特徴のある住生活の色彩や民族衣装の色彩などをみると、生活習慣や文化伝統は強く影響を与えていることが強く感じられます。 - 流行の影響
周期的な流行や時代変化の影響
雑誌やテレビ、現在はインスタグラムなど情報に触れて嗜好に影響を受けているのは毎年行なっている色彩嗜好調査結果でも類推できます。 - 個人の年齢による円熟化の影響や性別による影響
性別による好みの違いはしばしば取り上げられます。年齢が上がるにつれ、経てきた経験の影響や興味や関心の変化などによって嗜好も変化する部分と、若い時に身につけた好みの継続両方が見られるでしょう。 - 社会性による影響
教育・教養による知識習得による影響や所得による購買態度・判断性の違いによる影響
個人個人が接触してきた分野・文化の違いは嗜好に反映されるでしょう。所得の差異はその接触経験の豊富さにつながる場合もありますが、逆に情報の偏りにつながって、非常の独自の嗜好形成がなされることもあるようです。
個人の嗜好に対する研究はモノづくりやマーケティングには常に欠かせないテーマと思われます。
これからも、それぞれの地域での文化や伝統と個人の属性や学習の結果などいろいろ解明していかなければならないでしょう。アメリカでは階級や所得による差異の研究が多くなされてきたように思いますが、少し前まで一億総中流だった日本では所得による違いの研究はあまり必要がなかったと言えるのではないかと思います。もちろん本当に数少ない高収入層は独特な好みを持っていることは捉えられていて、そういった方々を対象とした分野は一般的ではありませんでした。どちらかというと、「人と同じ」「あまり目立たないほうが良い」という傾向をもつ日本社会の中での好みの研究は、「感性」の違いを探った方が分かりやすい面もありました。
その様な日本人の感性研究の中で、これまで、嗜好する色によるグループ分けをしてきた調査分析の中から、五感との関係に着目した結果を整理してみましょう。個人の嗜好の形成の中で、五感が何らかの影響を与えているのではないかという仮説からの取り組みです。
色はもちろん「視覚」で捉えて認識しています。つまり色という情報を感覚器官で受信する仕組みに依っています。ではその他の感覚とも何らかの関連はあるのでしょうか。色を見た時に瞬時に柔らかいイメージや硬いイメージなどを抱きますが、それは触覚で得た経験の蓄積からの反応だと考えられます。
そこで、嗜好色の傾向と自己判断による情報への感度、五感の感度との関連を見てみようと考えた次第です。
これらの結果を見ると、高彩度のパッと見てわかりやすい色を好む人は、視覚情報に反応しやすく流行感覚に優れると感じている傾向があるようです。音感や直感、ユーモアセンスにさえ自信があり、全方位的に自分の感覚感性を肯定的に捉えている傾向が見られます。ポジティブで外向的な傾向も読み取ることができます。一方面白いことに自分で感性には自信がない、流行に疎いと回答しているグループもやや似た派手な色彩を好んでいることは注意しておきたい結果でした。
そして、それとは反対に彩度の低い色を好むタイプは、一見して分かる情報より、触覚、味覚、嗅覚など質の違いを判断する感覚・感性に自信を持っている傾向が見て取れます。いろいろ経験を積んできている人や教養を身に付けた人は落ち着いた色彩を好む傾向が見られるといった、嗜好の年齢説や教養説との類似性を感じさせる結果といえそうです。
これらから、味にうるさい人向けのビジュアル表現やパッケージには、彩度を抑えた、質の良さ訴求のほうが効果的であろうなど方向性も検討できるのではないでしょうか。
クールハードな好みの人は、感性や感覚ということに関心が低く、マニュアルや論理的説明のようにきちんと解説しているような情報が欠かせないようです。ビジュアル訴求だけでは納得しないタイプといっていいでしょう。
こういったカラーサンプルを見て回答してもらう調査方法は、調査時点の時代の影響を受けているのは確実なので、一回行った結果がいつの時代でも通用するとはいえませんが、色彩の嗜好と感性・流行性などの関連を整理すると、ターゲットへの訴求方法がみえてくるのではないでしょうか。
2016年11月30日
Text by 日本カラーデザイン研究所